「輪はひらく」
いつのことだろう
丈高い木々に囲まれた闇の夜
私は冷たい土の上に膝をついている
目の前にはひとり
若く背の高い男が
長い体を横たえている
月もない夜が仰向いた顎に落ち
力なく投げ出された手を足を染め
私には彼をほのかに見ることさえも難しい
どんな表情をしているか
痩せているのか
何を着て
生きているのか 死んでいるのか
彼は 誰なのか
だが 私は知っている
私の全身がそれを悟っている
彼の目が閉じられていること
私が彼を失おうとしていること
彼が途方もなく 大切なこと
どこまでが自分の命かわからないほど
どこからが彼の体かわからないほど
絶望的に分かちがたく
大切な相手だということ
―――そも 私が何者か
男なのか 女なのか
若者か老人か それすら
わからなくても
私は彼の胸を抱いて
湿った大地から引き離す
ぐらりと揺れる頭は、だが
望むようには起きてはくれない
そして私は叫び始める
まだあたたかな胸に額をつけて
やさしい名を
刃のように叫び始める
いつのことだろう
いつも変わらぬ
灼け付くような激情と絶望
繰り返す
闇と慟哭と狂乱
いつも変わらぬ
この私には
そこにいる私の声は聞こえない
なんという名を
どれほどの血と共に呼び続けたのか
今の私にはわからない
けれどもすべて
知っていること
いつだったか私が
何度も 何度も
味わったこと
何度も なんども
覚えていないほど
いくたびも
そして知っている
今 懐かしい闇が私をそっと抱いて
夜ごと ささやくのを
終わったんだよ
もう、
すべて終わった
そしておまえは
おまえのままだ
さあ
新しい道へお行き
だから私は
目醒めたら歩き始める
太陽の輝く道を
光の射す方へ
幾つもの夜
いくつもの時の
数えきれない闇と
一度も失ったことのない
すべての名の
彼を抱いて



